ひき逃げ事故に遭ったとき治療費など損害の賠償請求は?

ひき逃げ事故に遭ったとき治療費など損害の賠償請求は?

ひき逃げで加害者が逃走し、警察の捜査でもひき逃げした自動車の行方が分からず、加害者を特定できない場合、治療費など損害の賠償請求はどうすればよいのか?

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ひき逃げに遭ったときの損害賠償請求

 

ひき逃げ事故に遭い、加害者が逃走し不明のままだと、相手の自動車保険会社から治療費を支払ってもらうことも、逸失利益や慰謝料などの損害を賠償請求することもできません。

 

こういう場合は、国に、損害の填補を請求することができます。

 

ひき逃げ事故の被害者は、国に保障金を請求できる

通常、自動車事故で負傷したときは、相手の任意自動車保険の担当者が、治療費の支払いをはじめ、損害賠償額の計算から支払いまで全ての手続きをしてくれます。いわゆる「任意保険会社による一括払い」が行われます。

 

ところが、ひき逃げ事故に遭い、加害者も加害車両も不明の場合には、加害者に損害賠償を請求することも、相手の自動車保険から支払いを受けることもできません。

 

治療費は、被害者自身が病院に支払わなければなりません。加害者が判明しなければ、被害者の負担のままです。治療費だけでなく、怪我のために休業を余儀なくされた場合の休業損害、将来の収入が減少することによる逸失利益、精神的損害に対する慰謝料など、被った損害の賠償を加害者に請求できません。

 

こういう場合に備えて、被害者を救済するために用意しているのが、政府(国土交通省)が運営する自動車損害賠償保障事業です。「政府保障事業」と呼ばれます。

 

ひき逃げ事故の被害者は、政府保障事業に対し、保障金(損害の填補)を請求できます。

政府の自動車損害賠償保障事業とは?

国は、自動車事故による被害者の保護を目的に、自動車損害賠償保障法(自賠法)を制定し、自賠責保険(自動車損害賠償責任保険)制度を整えています。

 

自賠責保険による被害者救済制度の限界

運行車両に自賠責保険の契約締結を義務づけ(自賠法5条)、自動車の保有者に損害賠償責任が発生したときには、自賠責保険から保険金が支払われる仕組みです(自賠法11条)

 

さらに、加害者が、被害者に損害賠償金を支払わない場合でも、被害者は、加害者の加入する自賠責保険に対し、損害賠償額の支払を請求できる直接請求権も法定しています(自賠法16条)

 

こうして、万が一、事故を起こしたドライバーに賠償資力がなくても、被害者が最低限の補償を受けられるようにしているのです。

 

しかし、ひき逃げ事故のように、事故を起こした自動車の保有者が分からない場合には、被害者は相手方自賠責保険から損害賠償額の支払を受けることができず、自賠法(自動車損害賠償保障法)の目的である「被害者の保護を図る」ことができません。

 

そこで、自賠責保険制度を補完し、自賠責保険による救済を受けられない被害者を保護するため、国が、被害者の損害を填補する制度を設けているのです。国が保障するのは、損害賠償ではなく、損害の填補です。損害賠償責任は加害者にあり、国は、あとで加害者が判明すれば求償する仕組みです。

 

政府保障事業の内容

政府保障事業は、自賠責保険制度を補完するものであり、必要最小限度の救済を保障することを目的とした社会保障政策上の見地からの制度です。

 

政府保障事業による填補金の支払い限度額は、自賠責保険の保険金の支払い限度額と同じです(自賠法施行令20条)

 

さらに、政府保障事業は、他の法令による給付を受けてもなお填補しきれない損害につき、限度額の範囲で被害者の損害を填補する仕組みなので、労災保険や健康保険など他の法令による給付を受けられる場合は、その給付金に相当する額が控除されます。他の法令による給付との調整について詳しくはこちらをご覧ください。

 

政府保障事業に請求する場合は、事故が労災に該当する場合は労災保険の適用を受け、労災でない場合は健康保険等を使って治療するなど、他の社会保険給付を受けることが必要です。

 

被害者にも過失がある場合は、過失相殺されます。かつては、一般の損害賠償と同じ過失相殺率が適用されていましたが、2007年(平成19年)4月1日以降の事故については、自賠責保険と同様に重大な過失がある場合のみ減額する「重過失減額」が採られています。

政府保障事業に対する請求

治療費は、とりあえず被害者が、健康保険等の一部負担金(患者の窓口負担分)を支払わなければなりません。労災保険の場合は、治療費の自己負担はありません(⇒ 労災保険のメリット)。

 

治療が終わった段階で(後遺症が残る場合は症状固定の日から)、政府保障事業に対し、治療費の負担分を含めて損害の填補を請求することができます。

 

政府保障事業への請求は損保会社の窓口で受付

政府保障事業に対する請求は、自賠責保険を扱っている損害保険会社で受付しています。必要書類を保険会社の窓口に提出することで、請求手続が進行します。

 

請求の受付をした保険会社は、損害調査を損害保険料率算出機構に委託します。その損害調査の結果をもとに国土交通省が填補額を決定し、その結果にもとづき保険会社が被害者に保障金(填補額)を支払う流れです。

 

政府保障事業に対する填補請求権の時効に注意

政府保障事業に対する填補請求権は、3年で時効により消滅します(自賠法75条)。消滅時効の起算日は、傷害については事故の日、後遺障害については症状固定の日、死亡については死亡の日です。時効期間・時効起算日も、自賠責保険に対する直接請求権の消滅時効と同じです。

 

時効により請求権が消滅してしまわないうちに請求することが大切です。

 

なお、加害者とみられる者との間で、自賠法3条による損害賠償請求権の存否についての争いがある場合には、その請求権が存在しないことが確定した時から、保障事業に対する填補請求権の消滅時効が進行すると解されています(最高裁判決・平成8年3月5日)

まとめ

ひき逃げ事故に遭い、加害者や加害車両が不明の場合は、自賠責保険から支払いを受けられませんが、そんな場合、被害者は、政府の自動車損害賠償保障事業に対し、損害の填補を請求することができます。おおむね自賠責保険と同程度の金額の支払いを受けることができます。

 

なお、政府保障事業は、他の法令による給付を受けることを前提としており、その給付金を受けてもなお不足する損害額につき、限度額の範囲で填補する仕組みです。ですから、事故が労災適用となるときは労災保険給付を受け、労災でない場合は健康保険等を使って治療をするなど、社会保険給付を受けることが必要です。

 

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関連

政府保障事業について、さらに詳しくは次のページをご覧ください。

 

【参考文献】
・『新版 逐条解説 自動車損害賠償保障法』ぎょうせい 221~236ページ
・『逐条解説 自動車損害賠償保障法 第2版』弘文堂 225~241ページ
・『自賠責保険のすべて 13訂版』保険毎日新聞社 176~180ページ
・『プラクティス交通事故訴訟』青林書院 36~41ページ
・『交通事故損害賠償保障法 第3版』弘文堂 400~402ページ
・『新版 交通事故の法律相談』学陽書房 322~324ページ
・『新版 交通事故の法律相談』青林書院 359~365ページ
・『交通事故事件の落とし穴』新日本法規 162~165ページ

公開日 2023-03-31 更新日 2023/04/18 11:52:03